第六話

警報音で目が覚めた。機内放送が「緊急着陸態勢。緊急着陸態勢。」と叫んでいる。
隣をみると、三好が携帯PCを操作している。俺のほうを向いて、
「地球環境保全協会のテロ予告がムウンベースに送信されてきたそうです。月でも活動となると、予想よりも大規模ですね。月面基地8箇所のうち半分で不具合が相次いでいるそうです。」といった。
小さな警報音が鳴った。手元のオートペーパーに緊急メールが届いている。
「地球環境保全協会のテロ予告が、本社宛に届きました。貼付資料を見てください。水野さん、三好さん、心配です。それから、山岡さんの向かった先は、北極の近くらしいそうです。昨日、由利さんと食事をしたときに聞きました。山岡さんも心配です。」と書いてあった。智美は、山岡の彼女と友達になったらしい。俺は、ちょっと微笑んだ。
添付画像には、テロ予告文書が入っていた。中央に大きな金槌の絵が描かれていて、その上には、「父なる太陽系、母なる地球を、ありのままに守っていこう!という字が躍っている。三好が、俺の手元を見て、「環境協会のマークですね。神の鉄槌だそうですが。」と言った。連中は、国連の地球復興計画が気に食わないらしい。俺達の仕事を阻止すると、いきまいているようだ。
と、その時、窓の外から一瞬青白い光が差し込むのが、視界の隅に映った。
「アルファの補助原子炉の辺りですね。えーと、アルファ及びガンマの北側で放射性ホウ素やアルファ線の検出量が上がっています。テロによる補助設備の爆破と思われます。」と、三好が手元の画面を読み上げている。コガネムシが少し羽を広げたような形の航宙機は、羽を翻して機体を急に左へ傾けた。急激に向きを変える窓の景色の中に、砂煙を上げながら走り去っていく月面ヴィーグルがかろうじて見えた。
「あんなところをヴィーグルが走ってるのは変だなぁ」と言いながら、三好は携帯PCのレンズを向けていた。周りの照明が赤くなった。機内放送が機長の肉声に変わった。
「月面への直接着陸に切り替えます。乗客の方は、椅子の保護カバー内に座っていてください。間もなく着陸します。」俺は、座席がカプセル状に覆われるのを見ながら、なぜかロックのバーボンが飲みたくなっていた。