第七話

「水野。おい水野!」俺を呼ぶ声が聞こえる。そうか、俺は今ショットバーで飲みすぎて、変な夢を見ていたんだな。安息日に酒を飲んだ罪って奴かな。その証拠に、丁度この前と同じ声だ。
ん?同じ声?俺は、思わず首をひねった。
「な、なんでお前がここにいるんだ。」俺は、目の前で猿みたいに笑っている山岡に言っていた。
山岡は、俺の左手に触りながら、
「筧係官、13人目も無事です。左手と右耳に軽症あり、その他症状なし。以上、乗客乗員13名の全員無事を確認しました。」と、部屋の隅の胸に名札を付けた係官に叫んでいた。山岡は俺に、「月面では、放射性ベリリウムも観測されているから、対放射線経過を見るために、もう少しここにいてもらうことになる。火星から、こんなに離れたところで事件に巻き込まれるとは、親不孝ものだなぁ。」と、さらに顔をくしゃくしゃにしながら言った。「まあ、無事でなによりだ。遠路はるばるお疲れさん。それから、その三好君のデータから、テロの犯人を挙げることができたそうだ。」
俺は、もう一回山岡に聞いた。
「何で月にいるんだ、お前。北極に向かったと聞いたんだが」
山岡は、俺の顔を見て、
「月から地球への貨物便にもぐりこもうとしたんだが、加速が強すぎて死んでしまうらしい。有人便はしばらく無くて、予定を調べたら、乗客が水野の便が用意されていたから、臨時の医者として雇ってもらって待ってたんだ。」とさらっと言っている。「おい、地球へ密航か?できるわけ無いじゃないか。何考えてるんだ。」と俺は言った。
「大丈夫、北極付近のキャンプに知り合いがいる。そこへ調査に行くための案内人を買って出た。お前の会社が、承認したから、密航じゃなくなった。」と山岡が言った。
そばにいた三好が、携帯PCで確認している。俺は、「ペイロードが増えると、飛行計画を再設定することになるはずだ。」と言ったが、山岡は、「なに、俺一匹くらい何とかなるさ。水野たちの機材に比べれば、ハチよりも軽い。」と言っている。三好は頷いて、俺に言った。「3名乗って、予定通り出発になっています。」
俺は、さらに大変なことにならなければいいが、と山岡の猿顔をみながら思っていた。