第九話

ハーレーから降りると、数軒の小屋がくすぶっていたが火は消えていた。人影は見えなかった。
「根津さーん、無事ですかー」と山岡が叫ぶと、ヘリウムとかかれたボンベが転がっている辺りの地面から、人が這い出してきた。
「無事でしたか。」と山岡は、近づいてきた人物に懐かしそうに声を掛けた。
「遠くからきていただいたのに、このざまで申し訳ない。お久しぶりです。山岡さん。」根津という人物は、俺に向いて、
「水野さんですね、山岡さんから聞いています。根津と言います。ここのキャンプ、総勢34名のリーダをしています。よろしくお願いします。」と言った。
「ここ、北極付近の現状を説明しましょう。多分火星で聞いてきたのと、ずいぶん違うかと思います。気温は、北極の冬で5℃前後、今の季節で10℃で、火星表面よりすごしやすくなっています。オゾン層は、北極上空のみ少し存在していて、北極の紫外線強度は生命に危険が無い程度には少なくなっています。殺人バクテリアと呼ばれている細菌兵器は、活動気温が25℃〜50℃で、今の北極では活動停止してしまいます。つまり、この付近にいる限り、ドームなしで生活できるのです。」と根津氏は両手を広げて言った。山岡が言葉を継いだ。
「そうなんだ、ここには、水野のやろうとしていることは必要ないんだ。どうも、情報の操作といい、ここの活動を阻止しようとしている環境協会の活動には、バックアップがありそうな感じといい、胡散臭い気がするんだ。きっと、何か隠されたことがあるに違いない。」
俺は、話を聞きながらいろいろ考えていた。
「俺たちが火星で聞いている地球の姿は、作り上げられた負の偶像なのか?俺達は一杯食わされたのか?」俺のつぶやきを聞いて、山岡は頷いていた。
次第に暗くなってきた。空には、乙女座のスピカが明るく輝いている。
山岡が、俺の肩に手を置いて言った。
「ここのキャンプでは、自然の力で地球を再生する方法を忍耐強く模索している。本当に地球を再生する方法は、多分水野達のやり方ではない気がするんだ。どうだ、この人たちを手伝ってみないか。さっき俺達が感じた「自由」を、我等人類全員の手に取り戻すために。」