第四話

ショットバーの扉を開けると、カウンターには三好が既に掛けていた。マスターが、今日は、男性だけ?と聞くので、俺は指で3を作りながら言った。
「いや、そろそろ来ると思うが。3人だ。」と言っていると、扉が開いた。カウンター越しに、
「よう、智美ちゃん、水野さんお待ちかねだよ。」とマスターが声をかけると、
「いやだマスター、私たちそんなんじゃないわよ。」と彼女が明るく答えている。
「彼女には、グラスホッパー、俺にはジンライム」と、俺はマスターに注文した。
ギムレットじゃないの?それ」
「なんか、恥ずかしくてね。」ボギーじゃないし、と俺はいつも思う。
「とりあえず、プロジェクトのスタートに乾杯だ。メンバーは粒ぞろいだから大丈夫だ。」本当かよ、と俺は本当の思いを誤魔化しながらグラスを挙げた。
しばらくして、
「ねぇ、三好さんって、なんて名前なの?」と智美が聞く。「おい、三好だろ」と俺が突っ込もうとすると、「伊三です。」と三好が答えてしまった。智美は、俺の間の抜けた顔を見てから、笑いすぎて窒息しそうになっていた。
彼女の笑いが収まると、扉が開いて、一人の女性が入ってきたのが見えた。バーの中の男性全員の視線が、一瞬停まったのが、俺にはわかった。その美人は、優雅な身のこなしで、カウンターに近づいて、俺の脇に立った。
マスターが「水野さんのお知り合いですか?」と声をかけると、彼女は、
「そう。元カノ」と、言った。俺は、隣で智美が小さくなっていくのを見ながら、その美人に言った。
「誰のだよ。俺は、山岡じゃないぞ。」
智美が、俺の袖を引きながら小声で、
「だ〜れ〜なんですかぁ、そのビジンは」と聞くので、
「栗田さん。ダイモスにある図書館員。で、俺の親友の彼女。」
俺は、彼女の方を向いて、聞いた。
「山岡になにかあったのか?」
彼女は、少しうつむいて言った。
「連絡が取れなくなったの。」
「それは、いつものことじゃないか。」と俺。
「ううん、今回は少し心配。いつもより危ないところに出掛けたから。」と彼女。
俺は、ちょっとした予感を感じながら、彼女に聞いた。
「どこに行ってるんだ、山岡は。」
「地球」
カウンターにいる皆の手が一瞬止まった。