ヴィジュアル化と文章の勝負

探偵ガリレオ (文春文庫)

探偵ガリレオ (文春文庫)

TVが面白かったので、読んでみた。
これに関しては、TVに軍配を上げる。柴咲コウが出ていることを引き算しても、だな。
実験的なことを、文章で表現することと、映像で見せることでは、圧倒的に映像の勝ちである。
まさに、百聞は一見にしかず。光が曲がるなどと書かれているより、光線が曲がっている水槽を映すほうが、分かるし納得してしまう。しかも、読者に疑念を抱かせるヒマがない。
 文章を読んでいると、まてよ本当にそう?と思って、本から意識を切り離す瞬間がある。しかし、TVでは、製作者の支配する時間軸で事は進んでしまう。これでは、とりあえず画面を見続けるしかない。疑念の種は同じでも、成長の速度が違う。
 その点では、ちょっとまて、の部分をさらっと通り過ぎてしまえるTVの勝ちである。TV版「探偵ガリレオ」では、結構内容を書き換えているようで、それが「TV的」には成功しているように思える。湯川助教授の性格設定とか、やたらと数式を書いちゃうところとか、刑事役を若い女性にしたこととか、TV的な処理が上手になされている。
 反面、TVではさらっと流されてしまっている部分を、本では読み返せる利点もある。こんな短編でも、あれ、どうだったっけ?と思う部分があって、ちょっと一時停止してもとの部分を確認したいな、が簡単にできる。そして、自分なりの推理を固めてから次の文に進める。はっきりと、作者と読者の真剣勝負ができる。TVだと、「そういえばオレ、あいつが犯人だと思ってたよなぁ。」という感じで、曖昧になったまま結論を迎えてしまう。結果、勝負にはなっていない。その点、やっぱり小説がいいなあ、と思う。
 だから、サイエンスの部分を、もう少しがんばっていただきたかった。もう少し。サイエンスへのアプローチも、表現も、着眼点もOKです。でも、え、そこまで行くにはこれこれこういう条件が・・・・、という反応をさせてしまう部分もあったりして、一瞬引いてしまう。(TVはあっちの時間軸で押し切られて、流してしまう)
 文庫版の解説は、佐野史郎。なんで?と思ったら「東野さんが、僕をイメージして書いた」と聞いたから、だそうで。そんなイメージですか。大体分かりますが。そうすると、福山はちょっと違うのかな。でも、いい感じでした。
 理系離れが言われる中、こういう小説が増えて、サイエンスおたくが増えることも期待したい。続編にも、手を出しますか。