目標とする文章

春風亭小朝師匠のものらしい小咄を読んだことがある。

「ねぇママ。アメリカって遠いの?」
(間)
「黙って泳ぎなさい。」

こんな短編が書きたいと思う。
この短さの中に、
・前後の時間スケール
・映像の枠の拡大率
・効果的な伏線
・起承転結
・想像の余地がたくさんある、言葉の刈り取り方
が凝縮されている。
贅肉を削りに削って、エッセンスを取り出した結果たどり着くのが、このような小咄かと思う。
これも、書かれたものではなく、語られたものであればなおさら起承転結が強調される。
起:ねぇママ (状況説明。子供と母親が居て、穏やかな雰囲気が漂う)
承:アメリカって遠いの?(親子の会話。日本から見たアメリカへのスケールが、聴者の頭に浮かぶ)
転:黙って泳ぎなさい(泳いでる状況が飛び込んでくる)
結:。(聴者の頭の中で、泳ぐ→アメリカって言ってたよな→えええ、太平洋!!!と思考が進む。転から結へ、考える時間分タイムラグが生じる。転結は同時ではない)

この短いセリフの行間に、大海原を泳いでいる親子、延々これから10000kmくらいは泳ぐ気らしい、ママの決意は固い、能天気な子供、いったい何があったんだ、等々いろいろ詰まっている。含蓄という言葉がある。語らずに、このような状況を行間に詰め込むのは、すごいと思う。
この含蓄があって、字数が少ないというのが、私の理想の短編。
こんな短編を書きたくて。