lionfan2氏の謎解きに回答しました。http://q.hatena.ne.jp/1338988481

『鳴動』

粉雪が舞う田舎町。ふだんならのんびりとした温泉街だが、今日は違っていた。
「おおぃ、こっちだ」「点呼しろ」「新しい機材はこっちへ」
声の飛び交う中、地面が揺れる。旅館の二階の窓ガラスが、ピシッと鳴る。旅館の玄関から、女将が空を見上げる。その視線の先には、黒い煙が広がっ ている。雲とも煙ともつかないその塊は、広く上空を覆っていた。太陽はさえぎられ、まるで夜の入口の様だ。
「女将さん、電話です」
仲居が声をかける。女将は、時おり赤く光る山腹から視線をはがすと、旅館の中へ入っていった。

「ええ、しかたありません。はい、そうですか。おいそがしいところ、すみませんでした。」
傍らに佇む老人が、女将に頭を下げている。
「すみません、せっかく作ったCMが流せなくなったなんて。」
「番頭さんのせいじゃありませんよ。それより、救助の人たちを応援しましょう。」
温泉街の中央通りは、レスキューや自衛隊の車が行きかう。旅館の前に、マイクロバスが停まる。
「いらっしゃいませ」
女将や仲居がバスから降りる面々に挨拶する。よく日に焼けた一人が言う。
「こんな時に、お宿を提供していただいて、ありがとうございます。ボランティアの基地として使わせていただきます。」
火山灰が降り、低周波の響きが家々を揺さぶる。バスを降りたボランティアたちが旅館に入っていく。列の最後の女性が、女将に振り向く。
「いつもだったら静かな旅館ですよね。富士山は必ず静まります。その時は、また、静かな温泉に浸かりに来ます。」
女将は、女性の手をやさしくしっかりと包み込んだ。