推敲前の作品です。習作といってもいいかも。

かきつばたに習作のまま投稿しました。ひょっとすると、内容の再検討と推敲後の作品を上げるかもしれません。とりあえず、もとのまま載せます。



「夜間飛行」


モニタの君は、何かを話し始めるように、口が開きかけている。なんだか、すこし艶っぽい。操縦席のメインモニタを前方に切り替え、私は少し休むことにした。画面には、星々が光っている。画面の中心に集まっている星は、なんだか青っぽい。画面をボーっと眺めながら、私はつぶやいた。
「虹、見えないじゃん。青いのもあるけど、他の色もあるし。データ整理するか、人類のためにな。」
航路図を表示する。太陽系平面から、垂直に北へ。まっすぐに向かう航路だ。航路には注釈が、矢印で示されている。『亜光速試験機、ライトニング』と。
「現在位置は、ここ」
画面の赤い点滅を触る。
「最終加速終了ポイントは、ここ」
画面の緑の点を触る。
「切り離し予定ポイントがここだったけど、分離できずに現在航行中」
画面に数字が踊る。
「最終加速は、俺にも耐えられるし、その後の亜光速航行も大丈夫、と。試験機だけじゃなくて、人の乗ってるほうも亜光速だからねぇ。」
画面が切り替わり、船体を映し出す。なめらかな表面が、一部だけ大きく凹んでいる。そこには、岩の塊のようなもの埋まっている。
「今後は、石に気をつけろってね。」
さらにカメラは後ろを映す。太陽系方向には、なにも見えない。相対論的速度なことが実感できる。
「太陽が見えないんだから、夜間飛行なのかなぁ」
ふと、思いついて、画面の隅で何か話そうとしている君の映像を編集した。航行速度に合わせて、再生速度を調整しただけだが。
画面の君は、普通に俺に話しかける。
「いろいろ無理しないで。ごはん作って待ってるから。」
短いなぁ。分離操作の前に、送り始めてたんだよな。まだ、事故知らないときの映像だよな。

カレー食べたいな。なあユミ。俺、君のカレー食べたいよ。もう食べられないんだよなぁ。

それから俺は、太陽系からどんどん遠ざかる船の中で、受け取る人類がいるのかどうかわからないデータを送り出しながら、ユミの口が「カレー」とゆっくり話すのを眺めて過ごした。君にもう会えないんだ。……その意味がようやく分かり始めたところだよ。だいぶ時間がかかったけど。


地球上の時間では。