かきつばたに参加しようとした作品です。

テーマ:擬人化 (枕が書けなかったのと、締切りすぎちゃったらしいので)

 

『でざいんすたじお』


「島が。」
あの時、俺はテレビの画面を見ながら、先輩に電話していた。
「消えました。」
「何をいってるんだ?」
「あのデザインスタジオの島です。近くの海底火山の噴火で沈んでしまって、なにもありません。」
電話から、ヘリの音が聞こえてきた。テレビを先輩もつけたらしい。
「お、ほんとだ。あの島だ。」
「ですよね。」
一瞬の沈黙の後、
「別のデザインスタジオにたのもう」
という声が聞こえてきた。

さて、話はその1か月前にさかのぼる。
俺は、新しい商業ビルの宣伝に、ビルのキャラクタを擬人化することを提案した。擬人化については、課内の先輩にエキスパートがいるので、相談をした。
「先輩、このビルの擬人化なんですけど」
「なんだよ」
「先輩の知っているデザインスタジオに頼めないですか。いつも個性的なデザインだから」
先輩は左右を見回し、小声で言った。
「お前、口は堅いか。」
「ええ」
「秘密が守れるんなら、紹介してもいい」
真面目な顔をしている先輩に、頷いて答えた。

延々荒れた海を漁船で進み、半日たったころにやっと島影が見えてきた。
「先輩、あれ」
「あ、あれあれ。船頭さんあの島へ」
他に船のない入り江に漁船を待たせて、小さな島の小高い丘へ向かう。汗だくになってたどり着いた先は、洞窟の入り口だった。看板も何もない穴へ入っていくと、小さな事務所があった。
「ではよろしくお願いします。」
ちょうど、先客が帰るところのようだった。黒づくめの小柄な人が、白髪の老人に頭を下げている。我々は、黒ずくめの人とすれ違い、事務所に入った。
「すみません、擬人化のデザインをお願いします。」
白髪の老人が答える。
「どんなものですかな。その人の前世は。」
俺は「前世?」と思ったが、先輩は慣れた様子で答える。
「こちらのビルです。」
「ふむふむ。」
「いつものように、魂抜きの簡易版でお願いします。」
と先輩。「魂?簡易?」と疑問符だらけの俺ではあるが、話は進む。
「では、通常10か月ですが、簡易版ということで1か月でよろしいかな」
「はい、お願いいたします。」

洞窟を出るころに、先輩が俺をつついた。
「おい、今見たことは他には言うなよ」
「言いませんよ、こんな無人島なんて変なところ」
「それだけじゃないんだ。先客のこともだ」
「ああ、あの黒ずくめの人」
「船、他になかっただろ」
「あ、そういえば」
「毎日来てるんだよ、ここに」
「どうやって」
「それに、依頼するデザインの数も半端じゃない、4千ぐらいなんだ」
「え、それが毎日」
「で、デザインの受け取りは、10月10日後で」
「10月10日って、まるで」
「受け取りはコウノトリがやってくるってわけだ」
「えええ、それってどういう」
先輩はニヤリと笑って、
「前世と魂の情報を混ぜて、10月10日後に吐き出すデザインってなんなんだろうな」
とつぶやく。ううむと頭を抱える俺に、先輩はこう言う。
「な、他言無用だ」
俺はふと気になって聞く。
「なんでここなんですかね」
「デザインのバリエーションじゃないかな。うちもそれで頼んでるし。ここなら個性派が沢山生まれるんだろう」

そんな昔の情景が浮かぶ、都心の昼下がり。島が沈んで20年以上経った。
「課長、新しいデザインスタジオないっスか?ここって、個性がないっスよね」
若い課員といっしょに、擬人化を依頼するデザインスタジオを後にする。
「俺もそう思う。だがね、あまり個性的なスタジオがないんだよ。」
昔はあったんだけどね、と心の中で呟く。と、どこかで見たような黒ずくめの小柄な人影が、さっき我々が後にしたスタジオに入っていく。
俺は、隣の若い課員に聞く
「なあ、最近の若者って、あんまり個性がないと思わないか?」
「ああ、そうっスね。あのスタジオのデザインみたいっスね。オレも。」
あの時、惜しいスタジオを失ったんですね、お互いに。

 http://q.hatena.ne.jp/1338780124 の回答として。

書きあげたら終わってました。枕もないし。