かきつばた杯に参加しました。お題は「さらば愛しき※※」

かきつばた杯に、また参加しました。GM91さん主催「さらば愛しき※※」

とりあえず、1本目の参加作品

 

『街の灯』

 都市機能は沈黙していた。真っ暗な市街地は、街の死骸を思わせる。市街地のインフラである電気・水・ガスと交通制御や 電車などの交通が、頭脳を失ったためだ。
 その頭脳とは俺の傍らにある、スーパーコンピュータを中心とするシステムだ。そして、俺はそのシステムを統括するエンジニア。俺は、このインフラ制御のシステムと格闘し、その制御機能の変換作業をしていた。その最中に、隣のコントロールルームにテロリストが潜入し、占拠した。テロリストは市街地のスイッチをOFFにしてしまった。
 「我々は、政治犯の釈放を要求する。この都市の市民の生活を、我々は掌握している。市民の生活と引き換えに、我々の仲間を返してもらおう。いつでもこの都市を死の街にできることを忘れるな。」
 彼らの声明は的を得ている。この街は、あのコントロールルームから全てを牛耳られる設計だ。手も足も出ない。
 だが、彼らはこの街のシステム構成を全て把握しているわけではない。俺の存在に気づいていないようだ。というより、俺自身とシステムの関係を知らないのだろう。この街のシステムと俺の脳は、直結しているのだ。
 この街のシステムを構築するとき、俺は最先端の技術を使うことにした。それは人の脳を模倣する技術だった。そのためには、土台となる脳が必要だった。当然のように俺の脳をモデルとして使う事にした。
 脳の模倣のためには、脳以外の体の大部分を極低温にして、脳の機能だけを呼び出して接続する。遮断して常温に戻せば、普通の生活に戻る。毎日装置に入り、接続し、再びよみがえる日々を過ごし、俺の脳の機能は、システムに移植されていった。
 そんなある日、技術者のスイッチの入れ間違いで、俺は首から下の機能を失った。低温維持状態から戻ってこれなくなってしまったのだ。その日以来、俺は街のシステムに接続されたままだ。
 それは、人間としての未来を失ったことに等しい。
 事故の一週間後、現実を受け入れた俺は、街を経由して、恋人のユミにメールを送信した。
 「もう会えない。俺のことは忘れてくれ。遠い所へ行ってくる。帰れないと思う。」
 さらば、愛しき人よ。もう俺は人じゃない。
 それから俺は、街へ自分を移植することに専念した。街の処理機能を、俺の無意識の処理機能に変換する。人間の無意識領域の処理能力は、正確無比で短時間演算なのが知られている。その能力を使わない手はない。すでに人間の体を使えない俺は、街に身体機能を求めていた。
 俺の無意識は、意識に上らない所で作業している「識閾下複合分散処理機構」のことで、いま呟いているこの「俺」はその中の「統合意識候補」の一つになる。それぞれの無意識は、個別に役割を担っている。隣のスーパーコンピュータに分身を移植するのに、一年近く費やした。
 実際の処理は、この分散した機能(自分の分身だ)、がさらに分身を作って街の各作業箇所に住み着く。個々の処理はこの分身にまかせて、まとめだけをスーパーコンピュータでやるシステムを組み上げた。このシステムを開始すれば、街はコントロールルームの制御から解放されることになる。
 俺の体もまだここ存在しているが、脳を保持するためだけの役目だ。そして、ここで考えているのも、「統合意識候補」の最後の一分身。この「俺」であるこの分身はシステムには移植しない。この体と最期まで一緒だ。
 なぜなら、この分身が担っている役割は、「ユミへの思い」だったからだ。街にこの処理はいらない。そう思って、ここに残ることにした。そして最後に、俺の体と脳を街から切り離す分身が、一人は必要なためだ。
 街中の使える回線を繋いで、ユミのコミュニケータに接続できた。ユミはまだ眠ったままだ。街が凍り付いていることもわかってはいまい。
 テロリストが、スパコンと俺に気づいたようだ。扉を壊す音がしている。だが、システムを経由して、街中にばらまいた俺の分身には気づかないだろう。
 俺は分身たちにコマンドを送った。
 「街の灯をともせ。俺を遮断しろ。」
 コントロールルームを遮断して、都市を回復させるの だ、と。
 じきに俺の体を維持する装置も、俺を街に接続する装置も止まる。
 この部屋になだれ込んできたテロリストたちは、低温維持装置からあふれ出た液体窒素に触れて、凍り付くだろう。すでに センサが切れていて、俺には様子がわからないが。
 俺は人間としての最後のコマンドを送り出す。
 「楽しかったよ。ユミ。元気で。    bye」というメールを。
 接続が切れそうだ。もう、意識を維持することができなくなっている。ユミの返信が届いたようだな。
「ねぇ、ケン。なんでなの?何で今更?Bye?」

ここまで。

作品としては、SFなのです。が、この作品の主題は別にあります。

かきつばたへの参加で、何に頭を使うかというと、「お題」の処理です。

単に、短編を書けと言われたら、いくらでも書きます。が、せっかくお題をもらってるんだから、それを使わない手はありません。使い方はいろいろあって、

・表題に使う(王道でしょう?)

・もろにセリフにする。

・そのままのフレーズを使う。

縦読みすると隠れてる。逆さ言葉で隠れてる。

・音素をバラバラにして、音読するとお題だけどそのままでは書いてない。

・音も位置もバラバラ(絶対わからない)

・連想する言葉や場面をちりばめる

・上記の要素をたくさん入れちゃう

特に、音読して初めてわかるお題の埋め込み、にいつも腐心してしまう。今回もそれにさらに仕込みを入れてみました。

お題は「さらば愛しき※※」。これを、さらばいとしき→更 バイ 都市 き と分けてみた。前後に、今と能を付けると、

今更 バイ 都市機能 となって、なんだか使えそうなフレーズになってきました。でも、バイという話し言葉と都市機能という文語とが並ぶのはちょっと違和感でしたので、「ええーい、前後にちぎってしまえ」と、都市機能で始まる文章で、今更 バイ で終わる文章、という縛りを付けてみました。というか、これがお題への回答。ここから話を作ります。

ついでに、(今)更バイ都市機能 →(今)さらば愛しき脳 になるので、脳にさようならを言うストーリーにすることにして、文句を言われないように、お題そのものもしっかり書くという方針にしました。

本文を読ませるのが目的ではない(お題の仕掛けだけがこの短編の肝)ので、硬い説明的な表現にして、ほとんどをあらすじに。本文中の「さらば愛しき人よ」周辺を少し読みやすくして、あとは終盤まであらすじ。最後の段落だけ読みやすくして、ユミの独白メールは印象に残る感じで。音読してくれると、「ん?イマサラバイ?サラバイってもしかして」って引っかかってくれるかな、という作りだったんですね。

そんな計算で書いたんですけど、気づいてくれなかった様子でした。

ストーリーの方は、結構適当に思いつきを投げ込んでるので、恥ずかしいんですが。