3Dプリンタ

その係員は、綿棒を差し出した。
「こちらを、ほっぺたの内側にこすり付けてください」
私の細胞が付着した綿棒は、装置の穴に入っていった。
「次に、足の親指の爪をお願いします」
係員は爪切りを差し出した。私は、靴下を脱いで聞いた。
「右足でいいですか」
係員は頷き、右手で私を促した。
私の右足の親指の爪は、装置に吸い込まれていった。
「では、始めます」
係員はこう告げ、装置のスイッチを入れた。
「ところで、完成はいつです?」
「そうですね、細胞のSTAP化に1時間、培養に2日、構築に92日ですから、三か月後ですね」
「では、2週間後に」
「途中でなにかありましたら、ご連絡いたします」

三か月後、係員は装置の取っ手に手を掛けていた。
「いい出来だと思いますよ。ご覧ください」
開いた扉の向こうには、透明なカプセルが立っていた。そして、カプセル内に薄緑の培養液中に浸っているそれは、まぎれもなく私だった。
「では、お引渡しです。培養液に浸っている限り、状態は変わりません。記憶や意識に関しては、急速プリンティングのため装備しておりません。培養液を制御する装置がこちらです。何か質問は」
「以前に聞いたから、特にない」
「では」

私は、STAP3Dプリントセンターと書かれた建物を後にした。
急がねばならない。私の心臓と肺と腎臓と肝臓は、今日にでも移植しないともう持たないのだから。